2007年04月19日
藍が島殺人旅情「祐子の発見」その1
祐子の発見
応援に来た若手の警部、 糸川と平井が島の住人からの情報を持って帰ってきた。
あまり期待してはいなかったが、 還民丸が三宝港へ付いたとき、すなわち24日の午前11時ころに、吉住たち5人をじっと見ている女がいたという。
そう証言したのは、島の漁師で、 定期船が入る旅に荷揚げ作業を手伝うのが常となっている五郎という若者である。 五郎は釣りが好きでこの島に移り住んだのだという。よって、釣り人が来ると、 自分たちの魚が取られる様な気がしてあまり歓迎しないのだという。 その日も還民丸が入港したときに、 荷揚げ作業が一段落したときに吉住達を見て、また来やがった。と思った。大きなテレビカメラなど持ち込みやがって、 テレビかなんかで宣伝したらまた釣り人が増えてしまう。五郎がそう思ってその5人を見ていると、 荷揚げした荷物の影でその5人をジッと見ていた女がいた。というらしい。
その女が怪しいと五郎は得意そうに捜査員に情報を持って来たのだ。
あまり期待はしていなかっただけに、 有力な情報であった。
シケで定期船は出ていない、 島から出るにはヘリコプターだけである。平井がヘリコプターでの島からの脱出が出来ない様に航空会社に頼んである。 どうしてもヘリを出してくれという人がいたら警察に連絡する様にと釘を刺しておいた。 航空会社も殺人事件への協力なら仕方ないと了承してくれた。
その日遅く東京から連絡があった。 害者の身辺を洗っていた捜査員の一人、田中からだ。田中は赤津より年は5才若いが、T大学出の秀才である。3流大学出の赤津は、 そのうち追い越されるのだろうと思いながら、東京での指揮をまかせておいたのである。偉そうに出来るのは今だけかもしれない。 そんな事を思いながら、電話に出た。
田中の声は弾んでいた。
「警部、ぼくです。田中です」
「何か分かったのか?」
赤津警部が聞くと、
「殺された佐々木は独身でしたが、彼女がいました。 彼女の名前は、久保まゆみです。えーと27才です」
田中の声は弾んでいたが、大した内容の情報ではない。佐々木に恋人くらいいたって不思議ではない。 赤津はじれったかった。
「それで、その久保まゆみがどうした?」
赤津はその先を催促するように田中に聞いた。
「佐々木がですね。、 そのうちに大金が入る様なことを彼女に言っていた。と言うのですよ」
田中は更に弾んだ声でそう言った。
「それだけか?もう少し詳しく聞き出してくれ」
赤津はそう言って電話を切った。田中は、 でかしたという誉め言葉を期待したようだが、
「はいわかりました」と言って電話を切った。
刑事の経験が浅い田中にとっては、 大収穫だったようだが、赤津にとっては、どうせそんな事だろうという予測はたっていた。
佐々木が生きていては困るヤツが犯人である。 佐々木が藍が島へ行くのを察知した犯人は、覚られないようにじっと佐々木の後を追って、そのチャンスを伺っていた。
大千代は7年程前の台風で、 崖が崩れたままになっている。今だにその崖の下には3人が生き埋めになっている。崖が垂直なのでどうしようもならないらしい。 そんな気味の悪い場所に近付くのは、釣り人くらいである。
夜遅く、海上保安庁の山川課長が民宿を尋ねてきた。 赤津は、今までの捜査の進捗とお礼を言った。赤津は、釣り人という人物が気にくわないと思っていた。 山川もそう思っている一人である。二人は捜査の関係で過去にも3度ほど会った事がある。今回で4度目だ。 一度目は3年前に東京湾で女の水死体が上がった時で、2度目は伊豆の下田で釣り人が行方不明になったときだ。 釣り人の事故は多いが、2度とも海難事故を装った殺人事件であった。そして、 3度目は石廊崎の渡船業者が行方不明になった事件だ。この事件は、今だに水死体が上がっておらず解決していない。
渡船業者には膨大な借金があり、船のイカリを体にロープで巻き付けて海に飛び込んだ様で、 船はそのまま磯に激突している。不気味な事件であった。というより、捜査は続いている。赤津は、海に飛び込んだのでなく、 どこかで生きていると踏んでいる。
釣り人は平気で危険な所へ行く人物である。 考えられない。と山川は愚痴をこぼした。 赤津も同感だと首を縦に振った。
山川は、東京勤務の前は長崎県に居た。 東シナ海に男女群島という魚釣りにはいい場所がある。灯台があるので月に1度は見回る事になっている。
その男女群島では、 年に1度は釣り人の遭難事故があった。時には行方不明になって死体が上がらない場合がある。波が荒く潮も速い。 海に落ちたらまず助からないだろう。
そして、夜釣りもする様で、夜、 海に落ちたらどうしようもない。渡船も風裏の島陰に非難し、クルーも睡眠を取る。 朝になってから海上保安庁に連絡があっても探しようがないのである。その男女群島には、千人塚という場所がある。 今までに船舶の遭難や戦争でかなりの遭難者が出ている場所だ。
この周辺は夜には決まって幽霊が出る。といういい伝えがあるが、釣り人は、「単なる迷信だ」 と信じる事無く、その場所に入る。誰かがよく釣れる場所だから他の釣り人を寄せ付けないためにそんな迷信じみた言い伝えを作ったのだ。 と言う。確かにそうかも知れない。山川も幽霊などは出ると思わないが、千人塚のある場所は、上の赤瀬という波も荒く潮流も速い地域にある。 出来れば釣り人は入って欲しくないところだと言った。
そんな話をして山川とは別れた
投稿者 ootani : 2007年04月19日 23:50

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