2007年03月23日
藍が島殺人旅情「第2話」カメラマンの死 その1
カメラマンの死
佐々木は、民宿の軽トラックを借りて、 1時半頃に
「大千代港を見に行ってくる」
と言って出掛けたらしい。 藍が島へ来る途中に山田ともそう打合せていたので、大千代港に行くことは何の不思議もなかった。 大千代港がどの辺にあるかは山田も知っていた。ここへ来る前に地図で確認してある。釣り人の吉住や中村、そして、 ディレクターの太田も知っている。だが、誰も行ったことはなかった。しかし、こんな小さな島である。 ものの10分程度で行けると思った。
辺りは夕闇に包まれだしたが、 佐々木はまだ戻ってこない。
「何かあったのかも知れん。見にいってくる」
山田が言った。
吉住は、
「俺も行こう」
と立ち上がった。
「私も釣れてって」
祐子は座りながらだが、寂しい目で吉住を見上げた。
「おまえは待ってろ」
という吉住の説得を振り切り、勝手に付いてきた。昔から好奇心旺盛で、 何か事件と嗅ぎ付けるとじってしておれないのが彼女の性格である。
3人はライトバンに乗り出掛けた。太田と中村も一緒に行くと言ったが、行き違いになるといけないから残るように、 と吉住が待たせた。
大千代は、三宝港の反対側にある。 地図によると北側である。民宿「はまゆう」のご主人に道を聞いてきたからだいだいの検討が付いた。
「さっき私が歩いて来た近くじゃないの」
祐子が気味悪そうに言った。
大千代港に付くと、民宿「はまゆう」の軽トラックらしい車があったが、佐々木の姿はない。 大声で何度か呼んでみたが返事はない。軽トラックが乗り捨ててある先は通行止めである。数年前の台風で山が崩れ、 道路も崩れたということである。ほぼ垂直に崩れており、3人は懐中電灯の明かりを便りにそーと崩れた場所まで行き底を除いてみた。 霧に包まれており光は底まで届かない。3人ともなにか、不気味になってきた。
「恐いわ。帰りましょうよ」
祐子は恐怖を隠しきれない様子で、少し震えながら言った。
「何を言ってるんだ。だから来るなっていったんだ。佐々木さんを探さなくちゃ」
そう言った吉住も一人ではおそらく逃げ出していたが、山田と祐子が一緒だったので、もう少し探してみる勇気が出た。
山田は、ここへ来るとき還民丸の中で祐子から聞いた話を思い出していた。数年前の台風で崖崩れがあり、 港の護岸工事の関係者も巻き添えになったと聞く。垂直に崩れた土砂の中には今だに行方不明者がいると聞く。
そして、吉住の女房の在所は三重県の松阪というところで、その山奥には妖怪村というのがあり、 バケモノが住んでいるという伝説を聞いた。 その妖怪村では恋に破れた女や人間に嫌気になった女達が妖怪に姿を変えて住んでいるという話だ。 その近くでは若い男の行方不明者が出て、決まって妖怪に食べられたとの言い伝えが残っているらしい。
「私、本当は妖怪なのよ。うふふ」
茶目っ気たっぷりで、首を縦に振りながら笑って言っていたのを思い出した。
いかにも妖怪が出てきそうな怪しい景色なのだ。
山田が祐子の方を見ながらつぶやいた
「昨日から怖い話を沢山聞いたから・・・」
「佐々木さんはあの崖を覗き込んで落ちたんでしょうか?」
山田が続けて話した。
「そんな事はないさ、 この下の港で怪我でもして動けないでいるかも知れないし」
吉住はつぶやくようにそう言った。
大千代へ降りる道は、その少し手前にある。階段が300段近くあり15分程度かかる様だ。
「行ってみるか?」
吉住は、山田と祐子を促して3人でその階段を降りた。
投稿者 ootani : 2007年03月23日 23:44

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