★釣り好きドットコム/紀東海釣り情報

2007年03月16日

藍が島殺人旅情(第1話・還民丸 その2)

祐子は、どうしてもついていくとだだをこねてついてきた。

「いつも自分ばかりいいところへ言って…。」

と日頃から羨ましがられていた。祐子は実は魚が大嫌いだ。

「あの目が怖い」

といつも言っている。 しかし、この日の1ヶ月ほど前に、テレビでたまたま離島特集とやらをやっており、 その中に八丈島や藍が島も魅力的な離島のトップに上がっていた。釣り場へ一緒に行くのは危険である。

「(吉住たちが) 釣りをしている間は一人になるがそれでもいいのか?」

という問いに

「一人の方がかえってきままで楽しい」

と付いてくる嵌めになったのだった。

「魚が居ないとこならね」

と付け加えた。

よほど魚が嫌いな女性である。

藍が島は、「鳥も通わぬ…」 と唄われた八丈島から更に南に80キロ、正に太平洋のど真ん中に浮かぶ島である。島の周囲は約4キロ、 年中青々とした常緑植物に包まれており、遠くからでも青々と見える。吉住は藍が島という命名は的を得ているなと思った。 島の中央には日本では珍しい二重カルデラ火山がある。その中腹では、今でも湯気が立ちこみ、何時噴火してもおかしくない状態だ。 車の騒音やビルの工事の音など皆無で、時には都会でのそういった喧騒から逃れるのもいいと思った。

年中波が荒く、 季節風の吹く冬場は、海は牙を剥き、船止めの日が続く。よって、冬場のアタックは諦めて4月下旬にしたのであった。 中村は何時でも良いと言った。むしろ冬場の1月から2月がクチジロ石鯛に良いと言った。吉住もグレの大型は冬場が良いと思った。 しかし、冬場での上陸は不可能に近く、もし行けても竿を出す日が限られると思った。また、サラリーマンの吉住は休暇にも限度がある。 休めるのは精々1週間で、ゴールデンウイークなどの長期休日を含んで10日程度の日程でないと無理である。冬場に上陸しても、 何時帰れるか分からない計画は立てられなかった。

4月20日の朝9時に羽田空港で6人が待ち合わせる事にした。名古屋に住む吉住は、 小牧空港を8時発のJAL213便で羽田に向かった。大阪に住む中村は、伊丹空港を7時発のANA134便で羽田へ向かった。 二人は衛星放送のクルー達と羽田で落ち合うことになっていた。

吉住は仕事柄飛行機の旅は慣れていた。九州の離島などへの釣りにも飛行機を良く利用している。一方の中村は、 飛行機での旅は初めてで今回も大阪(伊丹)空港から羽田行きに乗るのも不安で仕方なかったという。落ちるという不安ではない。 本当に羽田に行き、吉住達に合えるだろうかという不安であった。それを察して吉住は大阪からの到着口まで中村を迎えに行ってあげた。

  中村とは顔見知りであった。ずんぐりむっくりで、 お世辞にもセンスが良いと言えない服装で、辺りをキョロキョロ見ながらこっちに向かってくる中村の姿をとらえた。 陽に焼けた健康的な顔で、頭髪はパンチパーマである。行き交う人は肩でも触れては・・・と少し遠ざけて歩く。 吉住は

「やれやれ」

と思いながら、こっちだと右手を上げた。 中村はにこっとしながら小走りに吉住のところへやってきた。

  「よかったよかった」

  中村はそう言って待ち合わせの場所に行けるかどうか不安だったことを告げた。

  八丈島行き出発ロビーにはCS衛生放送「釣りと旅」 のディレクターである太田がいた。カメラマンの山田と佐々木を紹介された。5人は世間話や今回の計画の話などをしながら、 八丈島行きのコンコースに急いだ。

  八丈島行きのANA257便は定刻通り11時に羽田を出発した。

  八丈島は、低い雲に覆われていた。

雲が厚いと着陸が困難で引き返すことも珍しくない。しかし、その雲は薄くなんとか着陸できた。

  八丈島の民宿「いしなぎ」 の主人が予定どおり我々を迎えに来てくれていた。八丈島で一泊して、翌日の朝、藍が島行きの船に乗る予定になっていた。しかし、 天候が悪く明日の出航は危ぶいとのこと。結局2日間は八丈島で足止めを食らってしまい、 3日目でやっと藍が島に上陸出来たのである。

4月24日、藍が島の民宿 「はまゆう」で昼食をとりながら5人で打ち合せを行なった。打ち合せというより、吉住と中村が勝手に豊富を語っているだけであった。

吉住は、

「俺は80cmの尾長グレ (メジナ)を釣ってみせる」

中村は、

「10キロのクチジロを仕留めてやる」

と両手を大きく開いて息巻いていた。

上物のグレのサイズは関西方面では大きさを長さで言うことが多いが、関東では目方で言うので、 カメラクルー達は80cmもあれば何キロか?と聴く。 

  「そんなもん釣ったことないからわかりません・・・」

  吉住はギャグを言って笑わせたつもりだった。

  「6キロから7キロ位じゃあないですか?」

  カメラマンの佐々木は無表情で口を挟んだ。

  「70cmで4キロから5キロだからそんなもんでしょうね」

  吉住は自分の記録は70cmである事を説明し、 70cmほどに手を開きながら、そういった。

  「それじゃ、10キロのクチジロは何センチ?、 いや何メートルですかねえ?」

編集長の太田が話に加わった。

クチジロは何故か全国的に目方で呼ぶ事が多いので、中村も最初から目標をキロで言ったのだった。

  「そんなん釣ったことないので、わからへん・・・」

  中村は大阪弁で外人が大きく手を開いてする仕草でおどけて見せた。

  「勿論メーター級ですよね?」

  もう一人のカメラマン山田が、 真剣に問い掛けたので笑いが納まった。

  「うん、そう思う。ぜったい釣るぞ」

  中村は気合満々に言った。

  釣り人のロマンの話は尽きない。 過去の自慢話となるとジェスチャーを交えて興奮状態となる。釣り人2人は勿論、カメラクルー達もこのロマンに夢中になっていた。 釣り人達は、そんな大型が掛かったらどうやって取り込もう。玉網に入らないろうし、と、真剣に考えていた。

しかし、 釣り人とカメラクルー達のギャップに気が付いた吉住がカメラマン達に話を振った。

太田を含むカメラクルー達も、 そんな大型が掛かった風景を想定しながら、その時はこちらから山田君が、そして、 アップで逆から佐々木くんがファイトしている顔を捉えること。とにかく迫力ある映像が欲しい。と指示していた。

  しかし、 誰もが本当にそんな大物が獲れると期待していなかった。釣り人の吉住と中村も、もしかしたら、 それに近い大物に巡り合えるかも知れないと思っている程度である。

  早速小手調べと、 二人は民宿の車を借りて三宝港に向かった。

  小雨が降る嫌な空模様である。 カメラもカッパを着せれば大丈夫だが、電子機器は湿気に弱い。もしもの事(カメラの故障)を考えて1台だけ同行する事になり、 太田が一緒に出た。

  三宝港は、 定期船が船付けする先端付近から左向きは岩礁地帯となっており、大物が潜むと言われる。吉住は、港の先端付近から竿を出し、 中村は、岩場の天辺から竿をだした。カメラマンの山田は、2人とも撮影出来るアングルを考えて、 中村の更に高場に位置した足場の良い場所にカメラをセットした。

「いつでもいいですよ」

と2人の釣り人に合図を送った。

  吉住は、 エサとなるオキアミに配合エサを混ぜたものを既に用意してある。それを撒き餌シャクで1杯、2杯と足元の海に撒いた。 直ぐに蝶々魚やイワシなどが集まった。何杯も撒き餌を撒き続けると、その下に黒い魚影が見えだした。グレ(メジナ)の様である。 40から50cmだが、2匹、3匹と現れ、吉住の撒くオキアミを拾いだした。さすが藍が島だと思った。 吉住が通う三重県の南部では、久しくそんな型にはお目にかかっていない。伊豆七島の神津島や式根島にも良く行くが、 最近ではこんな光景に出くわせない。東シナ海に浮かぶ男女群島でさえ、こんな光景が少なくなった。

  吉住は、震える手で仕掛けを作り、 ハリにエサのオキアミを刺して仕掛けを投げた。ウキは吉住の手作りである。流体力学から低抵抗を追及した自慢逸品なのである。 使うのが勿体無いくらい綺麗なウキだ。そのウキが潮に乗って流れていったと思ったら、視界から消えた。アタリだと思った瞬間、 竿が一気に伸(の)され、右腕に衝撃が走った。押さえていたリールの糸を一気に出し、暫らく魚を走らせると魚は止まった。 思いっきり竿を立てて一気にリールを巻いた。吉住は、

  「ヨシ、取れる」

  と、心で呟き、ポンピングに入った。 竿を起こして魚を寄せ、竿を寝かせる時にリールを巻くのである。そのポンピングを何度か行なっていると、足元にウキが見え、 魚が見えた。吉住の思った通り、尾長グレであった。それも60cmは越えている大型である。海面に頭を出した一瞬を逃す事なく、 予め足元に置いてあった玉網を使い一発で掬った。吉住は、

  「ふ~」

  と、ため息をついて後を見た。この時、

  「あーテレビカメラが回っていたんだ」

  と、獲物を網ごと見せた。 クチジロ狙いの中村が拍手をした。カメラマンの山田が、網から魚を出してこちらに見せるようにと合図を送ってきた。 吉住はテレビ撮影には慣れていた。合図がなかってもそうしたが、魚を出して嬉しそうに右手の親指を立ててグッドサインを出した。 山田が何か喋れと言っている様子なので、

  「60cmオーバーの尾長グレでーす。1投目ですヨ。 ビックリでーす。」

  と、おどけて見せた。

  「今日は、藍が島というところに来ています。 日本記録のグレを狙いにです。この調子だと70cmオーバー、いや80cmの日本記録も期待できそうです。」

  と、続けた。

  藍が島は、黒潮のコースのど真ん中にあり、 魚影は抜群に濃いところである。特にクチジロと呼ぶ石垣鯛の老成魚の魚影は濃く、5、6キロクラスならかなりの確立で釣れる。 10キロクラスも潜むという。

  グレも尾長グレを中心に、3、4キロなら確実、7、 8キロの日本記録が出るかも知れない。

  テレビの番組でも、 そんなナレーションでスタートするであろう。

  吉住は、まずは、やれやれと思った。

  クチジロ狙いの中村に、両手を大きく開いて、釣ったか? と合図を送ると、片手を大きく横に振った。まだ、アタリが無いようだ。

  二人は夕方まで釣りをして、 吉住は尾長グレの60cmクラスを4匹と50cm級のシマアジを2匹、それにやはり50cm級のヒラアジを釣った。 今晩のおかずにと尾長グレとシマアジを1匹づつクーラーへ仕舞った。

  中村は、 55cmのクチジロを1匹と40cmクラスのイシガキ鯛を3匹釣ったらしい。おかずに40cm程のイシガキ鯛をぶら下げていた。

  「エ?55cmもあるクチジロをリリースしたんか?」

  と、吉住が聞くと、

  「目標は1メーターや。 それに50cm越えると美味くない」

  と、いう返事が中村から返ってきた。

  「今日はお疲れさんでした。今日、 佐々木がもう一つの堤防の大千代を偵察に行っている筈です」

  と、カメラマンの山田が、

  「明日は大千代港でがんばって欲しい」

  と、付け加えてカメラの電源を切った。 釣り人が道具を片づけるまではカメラの電源を切らない。と決めているらしい。プロという2文字が似合うマジメそうな青年である。

  民宿の「はまゆう」に戻ると、 ディレクターの太田が出迎えてくれた。

  「どうだった」

  「えー。まずまず釣れましたよ」

  と、いった会話のあとに大田が、 佐々木君がそちらに回らなかったかと聞いた。

知らないと言うと、昼すぎに出たまま戻らないという。 心配そうにしている太田に、山田は大千代を見たあと温泉とか見ているんだと思います。今頃一人でゆったり浸かっていたりして、 と付け加えた。

  中村は、

  「一人で行くなんてすっこいやっちゃ」

  と、おどけて見せたが、 太田の不安な顔は変わらなかった。

  「もう直ぐ日がくれる。それまでに戻るさ」

  と、吉住は言って、尾長グレとシマアジがある。 それに中村さんが釣ったイシガキを料理して、待っていようと言った。

  「料理は俺にまかせとけ、 うまい刺身と特性の煮付け作ったる」

と、 中村が張り切って調理場に入っていった。

調理場では、祐子と民宿 「はまゆう」のおかみさんが、楽しそうに話しながら夕食の支度をしている。

「あら、お帰りなさい。 どうだったの?釣れたの?」

祐子は、 島の料理などを教わっていたと楽しそうに吉住たちを笑顔で迎えてくれた。

  「あんたら調理場使うのええけど、 私らの分も作ってくれんのやろネ」

  民宿のおかみは茶目っ気たっぷりに言って笑わせた。 中村は、よけいに張り切り、10人分の刺身や煮付けを作った。あとは、佐々木を待つだけだった。

 



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投稿者 ootani : 2007年03月16日 23:46

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